患者様からよく寄せられる『がん』のお悩みについての質問です。
- 2ヶ月前から声嗄れと血のまざった痰が続いています。喉頭がんが気になりますが、女性でもなるのでしょうか?(67才、女性)
- 喉頭癌は60歳以上に発病のピークがあり、発生率は10万人に3~4人程度です。危険因子としてはタバコとお酒です。これらの継続的刺激が発癌に関与するといわれており、喉頭癌の方の喫煙率は90%以上、またアルコールの多飲が声門上癌の発生に関与すると言われています。男女比は10:1で圧倒的に男性に多いという特徴がありますが、ヘビースモーカーの女性で喉頭癌になられた方は結構おられます。声帯にできる喉頭癌でほぼすべての方に嗄声(させい、声がれ)がみられます。かなり聞きづらい嗄声で良性の声帯ポリープとは違っていることがほとんどです。進行してくると痰に血がまざったり、呼吸が苦しくなってきます。1ヶ月以上嗄声が続く場合は専門医を受診していただき調べて頂いたほうがよろしいです。一般に早期癌では放射線を第一選択にその効果をみて手術を組み合わせていきますが声を残せるかどうかの判断が重要になってきます。進行癌では手術が中心となり場合により放射線、抗がん剤を組み合わせていきます。手術には大きく分け喉頭部切術と喉頭全摘術があります。喉頭部分切除術は早期癌に行われ、声帯を一部残す手術です。質は多少悪くなりますが声をのこすことができます。喉頭全摘術は部分切除の適応を逸脱した早期癌や進癌におこなわれ声は失われますので、術後食道発声や気管食道形成術などの代用発声で補う事になります。
- 右の耳の下に1cmぐらいのしこりがあります。なんでしょうか?(38才、女性)
- 両側もしくは片側の頚部のしこりがある場合、それはリンパ節が腫れている状態を考えます。頸から上のどこかに強い炎症か腫瘍がある可能性がありますが、この理由として頭部、顔面のリンパ液の流れはすべて頚部に集まるからです。例えば扁桃腺の炎症、歯肉部の炎症や結核でも頚部のリンパ節が腫れますし、無痛性で動きの悪い頚部のリンパ節の腫れが徐々に大きくなるようなら、腫瘍に関係する場合もあります。頚部のリンパ節から発生するガンはまれですが、若い女性の場合悪性リンパ腫などリンパ球組織由来の腫瘍が発生しますので注意が必要です。鼻の奥から喉頭部分までを咽頭といい、上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれています。そのいずれからもガンが発生しますが、上咽頭ガンは東南アジアでは非常に多く、日本でも南方ほど発生率が高いといわれ、ある種のウイルスとの関係が注目されています。これらの咽頭ガンは原発巣の症状は出にくいのですが、リンパ節に転移して初めて判ることも多くその発見が遅れがちになりますので注意して下さい。そのような場合、頚部リンパ節だけを採取し顕微鏡で見て確認することもあります。
- のどの違和感があり、近くの診療所にいきました。甲状腺にかたまりがあるといわれましたが、甲状腺ホルモン等の採血による検査結果は問題ないといわれました。今後どのようなことをするのでしょうか?(女性、49才)
- のどの違和感というのは非常に気持ち悪いものです。過去に500例近くの甲状腺に関する手術をしてきましたが、甲状腺腫瘍の方も結構この違和感を主訴として来られます。まず手指で首の部分をよく触る触診でかなりの情報を得ることができます。当然これだけでは不十分なので超音波(エコー)検査をおこないます。少しでも腫瘍が疑われたら、直接腫瘍部分に針を刺しその細胞を採取して顕微鏡で観察する穿刺吸引細胞診をしなければなりません。この検査は1回ではなかなか判断できない時もあり、経過をみながら複数回することもあります。もしこの検査で甲状腺の癌細胞がみつかれば手術の適応になります。良性の甲状腺腫瘍が疑われた場合、年齢、性、腫瘍の大きさや形状、経過等を考えて手術の有無を相談して決めますが、大きさが2~3cm以上の直径を持つ腫瘍ならば、手術による摘出することを勧めます。
- 首から上にできる癌の治療について教えてください。(67才、男性)
- 首から上の頭頸部には多様な癌が発生し、舌癌を含む口腔癌や、咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌、鼻副鼻腔癌、食道癌、唾液腺がんなどがあります。体全体にできる癌のうちの5-8%にあたります。これらのうち日本で最も多いのが舌癌であり、次に喉頭癌、咽頭癌です。舌癌は早期に見つかるチャンスが高く、早期に治療することができるので、舌に腫瘤を感じたら出来るだけ早く受診することをお勧めします。進行癌の場合は広範囲切除と遊離移植弁による再建を必要とすることが多くなりますのでその分入院期間が長くなります。喫煙者では喉頭癌のリスクが高く、進行癌では喉頭摘出を必要とし声を失うことになりますが、早期に発見できれば放射線で治療することができ、声を保存することが可能です。現在日本では、早期喉頭癌に対して出来るだけ非侵襲的な治療を目指しており、その治療効果も上がってきています。咽頭癌は手術が基本になりますが術後の嚥下機能が問題となります。腫瘍切除後の遊離移植皮弁による再建と術後の食物摂取や発声のリハビリテーションが日常の生活への復帰のため重要な課題とされています。また、下咽頭癌や食道癌は、治療の比較的難しい疾患ですが、化学療法、手術、放射線治療を併用することで治療成績が向上しており、特に、化学療法の導入により従来喉頭まで切除しなければならなかった方でも、喉頭を温存して治療することが可能となってきました。
- 2ヶ月前から首にしこりができていますが、あまり痛くありません。 だんだん大きくなりそのしこりの数も増えているような気がします。どんな病気でしょうか?(39才、女性)
- 片側または両側の頚部のリンパ節が腫れる場合、頸部から上のどこか例えば扁桃腺炎等の強い炎症か腫瘍のある可能性があります。それは、頭部、顔面のリンパ液の流れはすべて頚部に集まるからです。通常扁桃腺炎等の炎症が原因の場合そのリンパ節は痛みを伴いますが、無痛性で動きの悪い頚部のリンパ節のしこりが徐々に大きくなるようなら、早めに耳鼻科専門医に診てもらった方がよいでしょう。頚部のリンパ節から発生する癌はまれなので、それより上のどこかに原発巣が存在する可能性が高いのです。そのような場合、頚部リンパ節だけを取っても問題は解決されません。柔らかいリンパ節のしこりの場合でも悪性リンパ腫という病気や結核等がありますので、油断できません。その他、耳鼻咽喉科領域には、唾液腺、甲状腺、まれに中耳や食道等からも悪性腫瘍が発生します。いずれにしろ、首で何か異常に気付いたら、迷わずに耳鼻咽喉科の専門医を受診することです。自分は癌ではないかと悩んで来院される患者さんのほとんどは、実際癌ではありません。それをはっきりさせれば、気分的に楽になれますし、例え癌であっても、早期なら治癒率は現在十分高くなっています。
- 近くの病院で甲状腺に腫瘍がある可能性を指摘されました。甲状腺ホルモン等の採血による検査結果は問題ないといわれましたが今後どのようなことをするのでしょうか?(女性、57才)
- 過去に500例近くの甲状腺に関する手術をしてきましたが、まず手指で首の部分をよく触る触診でかなりの情報を得ることができます。当然これだけでは不十分なので超音波(エコー)検査をおこないます。少しでも腫瘍が疑われたら、直接腫瘍部分に針を刺しその細胞を採取して顕微鏡で観察する穿刺吸引細胞診をしなければなりません。この検査は1回ではなかなか判断できない時もあり、経過をみながら複数回することもあります。もしこの検査で甲状腺の癌細胞がみつかれば手術の適応になります。良性の甲状腺腫瘍が疑われた場合、年齢、性、腫瘍の大きさや形状、経過等を考えて手術の有無を相談して決めますが、大きさが2~3cmの直径を持つ腫瘍ならば、手術による摘出することを勧めます。